らぶりーデートになればいいな?

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〈絵美編〉
 慎ちゃんには絵美の知らない才能をたくさん持っているらしい。  今も真剣な顔で絵美の爪にマニキュアを塗っている。 「なんで慎ちゃんがマニキュア塗るの上手なの?」  わずかにある絵美の化粧道具の中から、オモチャのガチャガチャで確か採ったピンクのマ ニュキュアが、今慎ちゃんが握っている瓶だった。除光液なしで、ペロリと剥がせるという それは、対象年齢3歳から5歳と書いてあったが、絵美にはぴったりかもしれない。 「あ? 俺たちはライブのときにマニキュア塗ったりするんだよ。もちろんピンクや赤じゃ なくて真っ黒だけどな」 「真っ黒のマニキュア? 悪魔みたいじゃん。こわ〜〜〜い」 「……っていうより、俺がピンクのマニキュアしてたほうが怖いけど」  そう返事を返しながら、最後の一塗りを終えた慎が満足そうに笑う。 「よっし。これで乾くまで、絵美はピクリとも動くな!」 「はい」  これ以上ないというほどに指に力を入れてじっとしている絵美を見ながら、慎が笑い声を 洩らす。 「そんなに力いれてなくてもいいよ。マニキュアをどっかにつけたりしないようにしてれば」 「あ、そうなの?」  絵美は一気に肩にまで入っていた力を抜くと、「疲れた〜」とつぶやく。  その絵美の後ろに周った慎が、今度は髪をセットするためにブラシと自前のワックスを持 って構える。  そして手早く髪をまとめると、ポニーテールに結いあげる。 「ゴムで縛っただけだとちょっと物足りないなぁ」  両手を前に掲げたまま動けない絵美の代わりに、部屋の中を見まわした慎が、部屋の電灯 から下がっていたクリスタルの飾りチェーンを見つけて外してくる。 「そんなのどうするの?」 「髪飾りにつける」  そう言ってやはり自前のピンを駆使して髪の間に編みこんでいってしまう。 「ほれ、これで完成」  慎は絵美に鏡を渡すと、自信の作だと胸を張る。 「うわ、絵美じゃないみたい」  いつものぼへ〜〜〜と音のしそうな呑気顔の絵美ではなく、ちょっと快活そうな大きな目 の女の子が自分を見返していた。  ちゃっかりメイクも慎がしていたのだ。  エアリーチュニックにピンクのショートパンツ。いつも下ろしている髪が今日はアップで、 その髪に絡んだ透明とピンクのクリスタルがキラキラと揺れていた。マスカラで大きくな った目とプルンと濡れた感じのグロスを塗った唇。  ちょっと感動だぁと鏡の中の自分に見入っていた絵美の横から、慎も鏡を覗きこんで言う。 「絵美、すっごくかわいい」  そう言ってチュッとほっぺにキスをする慎。 「あ、ありがとう」  ポーっとなった絵美がキスされた頬を抑えながら慎を見上げる。  その絵美の手を取ってほほ笑んだ慎が床から絵美を立ち上がらせる。 「さ、行くぞ。遊園地」  いつもイケメンだけど、いつもよりずっと優しくてカッコイイ慎に、絵美は顔を赤くしな がら頷いた。
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