らぶりーデートになればいいな?

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〈慎編〉
 これは思ってもなくラッキーな展開だ。  慎は絵美のクローゼットの中を眺めながら、じっくりと服を吟味するふりで腕組みをして、 その実にんまりと笑っていた。  夕べさんざん悩んだ二人のファッションのギャップを、自分の好みの服を絵美に着せるこ とで解決できるのだから。  しかも今まで見たことのなかった絵美の足が、思いのほかキレイだったことに、実はドキ ドキしてしまっていた。  子どもっぽい、厚みのない体型だと思っていたが、それが足には良い方向性で働いたらし く、細くて真っ直ぐなために結構長く見える。  ミニスカートも捨てがたいが、ここは遊園地で遊ぶことを考えてショートパンツがベスト だ。それに編み上げサンダルなんて履かせたら、結構様になりそうだ。  ジェンキンスを抱っこして、すべては慎ちゃんにお任せしますという呑気な顔の絵美が、 じっと自分を眺める慎を見返していた。  絵美がはいているのは、ベリーピンクのショートパンツ。  これにだったら、上はフアフアエアリーなチュニックなんてのがベスト。それに長めのネ ックレスとか重ねたら、かなりオシャレでしょう。  そう狙いを定めてミッキーの取っ手付きのタンスに手をかける。  と、一番上の引出に並んでいたのは、きれいに畳んだブラとパンティーの群れ。 「あ、そこは下着だよ。慎ちゃん、下着までコーディネートするの?」  思わず力いっぱいに閉めたタンスの引出が、ダンと大きな音を立てる。  ああ、思わず閉めちまったじゃねぇか。もっとよく見てもよかったのに………。  そう思いつつ振り返れば、当の下着を見られた絵美は、特にどうともない顔で、不思議そ うな眼で慎を見上げている。 「慎ちゃん、どうしたの? そんなに力いっぱい押さなくても、タンスの引出はちゃんと閉 まるよ?」  こんなときは、空気が読めない絵美のアホさ加減に感謝したくなる。 「あ、そうなの? 俺のタンスはめいっぱい入ってるから、力の限りに押したり引いたりで、 毎日大変だぜ。ハハハハ」  自分でも乾いた笑いだと思いながら、絵美に背を向けて再びタンスに顔を向ける。  本当なら下着までコーディネートして、そんでもってそれを俺が脱がして………。  妄想ならいくらでも膨らませることができるのだが、そんなことをしても虚しいだけだと 重々承知している慎は、いやいやと頭を振る。  今日の目標はあくまでキスだ。絶対メロメロな雰囲気を作ってムディーにキスしてやる。  改めて心の内で拳を握る。 「絵美のトップスはどこに入ってるんだ?」 「トップス? アメなんてこんなところに入ってないよ」 「?」  いつもの人間語で話しているはずなのに通じない会話に、慎の脳がフル回転する。  一体目の前のマイペース星人は何を考えているのだろう?  そこでピカっとひらめいた慎が振り返りつつ眇めた目で絵美を見る。 「チュッパチャップスのことじゃないからな。トップス。上に着る服のことだよ。Tシャツ とかタンクトップとかキャミとかあんだろ!」  苛立ち半分、呆れ半分で言う慎の目の前に、だがすかさずキノコ型テーブルの上のカゴか らチュッパチャップスを差し出している笑顔の絵美。 「あのね、これお気に入りのストロベリークリーム。最後の一つで大事に取って置いたんだ けど、慎ちゃんに上げるね」  ニコッと笑ってキャンディーを覆っているビニールを剥いでくれた絵美が、喋りかけのま ま固まっている慎の口の中にポンと入れる。 「ね? おいしいでしょう? 本当にクリームがマイルド」  自分が今ストロベリークリームを味わっているようにうっとりとして言う絵美に、慎はも う何も言うまいと内心でため息をついてキャンディーを味わう。  確かにおいしいけどね、もっと俺の話をちゃんと聞いてよ。  少し悲しくなりながらも、チュッパチャップスを咥えた格好では様にならないとさらに意 気消沈。 「絵美、お願いだから、上に着る服が入っているところを教えて」 「うん。ここだよ。Tシャツがここで、ブラウスがその下。キャミソールはこっちの棚。そ れでね、この袋にこの前もらった服が入ってるの。総ちゃんのママがお引越しで処分するっ て若い頃の服を絵美にくれたの」 「総ちゃん?」  慎の知らない固有名詞だろうが平気で使う絵美の会話に首を傾げながらも、その総ちゃん のママが若かりし頃に着ていたという服を引っ張り出す。  と、それはなんとも派手でエロいキャミワンピだったり、スケスケのシースルーブラウス だったりするではないか。 「なぁ、その総ちゃんのママってのは、水商売の人だったりしたの?」 「ううん? 普通の美人のお母さんだよ。昔パパとデートするときに着てたのって言ってた けど」 「………ふーん」  生返事を返しながら、それを絵美が着たところを想像してみるが、あまりに似合わない。 胸がないからズルズルに肩から紐が落ちて貧相だろう。  いつかこんな服で登場してもらいたいものだけど。  そう叶いそうにない希望を抱きつつ、袋を探っていくと、下から発掘されて出てきた服に 慎の目が煌めく。  これだ!  そこには、白いふんわりと妖精をイメージさせるようなチュニックがあった。  チュニックを掴んで絵美の上半身に当ててみれば、なかなかマッチしている。 「いいねぇ」  一人納得して頷くと、慎が絵美を見つめてニヤリと笑う。 「ここからが俺の腕の見せ所。絵美をお子ちゃまから、ラブリーな彼女に変身させてやるぜ!」
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