「ラブラブキューピッドになってやるぞの巻」


3
    「あ、ナルト。良いもの持ってるね」  そう声を掛けてきたのはチョウジ。  なにやら大きな木の鉢を抱えて歩きながらやってきたチョウジは、ナルトの手にあるバナナを見つめ ている。 「あ、これいる?」 「うん」  チョウジの笑顔が眩しい。  ナルトが房からバナナを一本取ると、ワサワサと音を立てるほど見事に葉をつけた木の鉢を地面に下 ろす。 「ありがとう」  丁寧にお礼を言って、さっそく皮をむいて食べ始めるチョウジが生きている中での一番の幸せにめぐ り合った幸福感で頬を輝かせる。だが、そのチョウジの背後からその幸福感とは真逆の声が上がる。 「ちょっと、チョウジ! なにサボってるわけ? こんな美少女ががんばってはたらしてるって言うの に」  エプロンに軍手、手には選定バサミと花束という姿で歩いてきたのはイノだ。  なかやま花店の手伝い中らしい。そしてチョウジはイノにこき使われている最中。  や、やば。ここにいたら俺も……。  この先でイノが言い出しそうな言葉を予想して、こそ泥の忍び足でチョウジに巨体を利用して逃げよ うとしたナルトだったが、イノの洞察眼の方が上手だった。 「あ、ナルト。あんたも手伝ってよ!」  ビクンと背中を丸めたナルトがゆっくりと振り返ると、もう目の前にはイノが抱えていた新聞紙に包 まれた花束が突き出されている。 「えっと、俺はちょっと用が――」  だがその先を言うよりも先に、顔に濡れた新聞紙が押し付けられてウップと息を詰まらせる。しかも 新聞紙を突き破っていたバラの棘が顔に刺さって、かなり痛い。 「早く行くわよ! 伝説の三忍、自来也さまの注文なんだから!」 「え? エロ仙人の??」  尋ねるナルトの問いには答えず、イノはナルトの手が握っていたオレンジを奪い取る。 「ナルト気が利くじゃない。美少女がこの美貌を保つにはビタミンCは不可欠だものね。わたしへの貢 ぎものでしょう?」  NOとは言わせない眼力で見つめられ、ナルトは「ハハハ」と乾いた笑い声を上げるしかなかった。  見事なセンスでピンクや白、赤のバラを活けていくイノ。そのイノに不貞腐れた顔で花を渡す役に抜 擢されたのはナルト。チョウジはといえば、部屋の入り口で自来也の送ってきた結界忍術を得意とする ガマさんを手に立っているだけだ。  なんといっても、ここは火影室。  今この瞬間に綱手に入ってきたこられては困るのだ。 「それにしても、エロ仙人も何考えてるんだか。もしかして綱手のバアちゃんのことが好きなのか?」  イノが設計図といって送られた自来也作の花の配置図を見ながら呟く。  それは中央にピンクのバラでつくるハートのマークで、周りを赤いバラがなぞり、白いバラの額縁の 中に青い小花が文字を描くのだ。 ―― I LOVE TUNADE。 BY 自来也  ドアの外で「はひぃぃぃ! 火影室がないです!」と叫ぶシズネの声が聞こえてくる。 「イノ。早く! シズネさまがツナデさまを呼びに行ったから」 「そのための自来也さまの結界忍術でしょう?」  言い返しながらもイノの手は素早く動き続ける。  だがそのイノに小さいガマちゃんが言う。 「わたちツナデちゃま怖い。自来也のおじちゃんがぶん殴られてぶっ飛んでいくの見たことあるもん。 わたち、ツナデちゃまが結界殴ってきたら逃げる」 「「「え?」」」  それって結界の意味ないじゃん………。  三人が心の中で呟く中で、イノがピッチを上げていく。 「あん? なんでわたしの部屋に結界がはってあるんだい? どこのバカだ、そんなことするのは!」  綱手の声が聞こえる。かなり切れている声だ。 「やべぇ! 綱手のバアちゃんが来たぞ!」  ナルトの声にマジな怯えがこもる。ガマちゃんを手に持ったチョウジの顔にも恐怖のために青い影が 浮ぶ。 「あとチョット! なかやま花店の意地にかけて完成させるわよ!」  イノが叫ぶの同時に綱手の叫びも上がる。 「自来也のバカか!」  ガマちゃんの気配を感じ取って叫ぶ綱手の声に、怪力の拳が握られる姿が脳裏に浮ぶ。 「ハイ! できた!!」  最後の白いバラを並べ終わったところでイノが叫ぶ。  それと同時にガマちゃんの「ごめんなさいねぇ」といって消える声が聞こえる。 「自来也! てめぇ何して――」  怒鳴り声と同時に火影室に侵入した綱手だったが、目の前に広がった光景に声を失った。  部屋中に飾られたバラが甘い匂いを漂わせ、繊細なレースのように淡い色合いでハートを描きだして いる。 「あのバカ……」  そう言いつつ、その顔が赤く染まって笑みを作る。  それを窓の外で覗いていたナルトとイノ、チョウジは顔を見合わせて笑うのだった。 「ナルト。手伝いありがとう。助かったわ」  イノは先を歩くナルトに礼を言うと、手の中で余っていた花で花束を作ると手渡した。 「え? 花?」  なんだか可愛らしいピンクの花束を手にして、微妙な顔でそれを見下ろす。 「なに? 文句でもあるわけ?」  イノが腰に手を当てて、反論があったら即殴り倒すぞと脅すような勢いで拳を握る。しかも左手には 花を切るのにつかったハサミがあるのだから、危険極まりない。 「ううん。別に」  心のうちでは『さすがサクラちゃんのライバルだよな。こえ〜〜〜』と震えていたのだが、張り付い たような笑みで言うと両手で花束を胸の前で抱える。 「じゃ、わたしのもお礼ちょうだい」  すかさず手の平をナルトの前に出すイノに、首を傾げる。 「お礼?」 「さっきチョウジには上げてたじゃない」  ああ、バナナ。  ナルトのポケットには、あと一本のバナナとオレンジが一個入っていた。イノが花をいけるのに邪魔 だとナルトのポケットに戻していたオレンジが欲しいのだろう。  ナルトはオレンジを手にとると、 イノに向って放った。  それを笑顔で受け止めたイノがナルトに言う。 「チョウジにはバナナでわたしはオレンジ。その選択の理由は?」  オレンジを頬に当てて、今さらなかわいい子ぶりっ子で腰をくねらすイノに、ナルトの頭の中でピー ンと音を立ててはじき出す言葉があった。  サイを見習え。 「………えーーっと。そりゃ、イノは美人さんだから?」  自信のない小さな声で言うナルトに、だがイノはご満悦の高笑いで「ナルトも正直よね〜」などと言 って口に手を当てる。  そして近所のおばちゃんよろしく、バシバシとナルトの腕を叩くと去っていく。  その後ろ姿を呆然と見送りながら、ナルトが大きくため息をつく。 「はぁ。ここにサクラちゃんがいなくてよかったってばよ」  そのころ、量り終えた薬草の粉を運んでいたサクラが、急にムズムズしはじめた鼻にお盛大なクシャ ミをした。  クシャミの勢いにプハァと舞う粉。 「誰よ、こんなときにわたしの噂した奴は!」
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