「ラブラブキューピッドになってやるぞの巻」


4
 片手に花束、もう片手にはバナナという、あまりにも決まらない格好で歩いていたナルトは、どっか におもしろいことないかなぁと辺りを見回していた。  と、その目に飛び込んできたのはポケットに手を突っ込んだ、見慣れた少し猫背な男の姿だった。シ カマルだ。  シカマルが森の中に入っていこうとしている。  いい奴みっけた。 「おーーーーーい」  声をかけて走り出そうとしたナルトだったが、出しかけていた声をんん? と止める。シカマルの向 こう側に足が見えたからだ。女の足。  角度を変えてみれば、女の背中には大きな扇が背負われている。  あ、あいつは。  風の里の上忍、テマリではないか。 「おお。おおおおお!」  ナルトの顔が口に当てた手の下でニンマリと笑みを作る。 「お熱いデートっていうことかぁ?」  一人盛り上がってニシシと笑うナルトだったが、不意に背後に気配を感じて振り返った。  そこに立っていたのは、一人うっとおしいほどの暗い陰をまとっている感のあるシノだ。 「お、シノ。おまえここで何やってんだ?」 「………おまえこそ、奇怪な格好をしているものだな」 「ん? そうか?」  確かに森の中を覗き込みながら、バナナと花束を持ってニヘラと笑っている姿は、なかなかもって無 気味だった。 「あ、ナルトくん」  そこへ声をかけて現れたのは、顔を赤くしたヒナタ。  ナルトの存在に気付いた途端に、あまりに開いた距離で立ち止ってモジモジと目をさまよわせながら、 時折チラっとナルトに視線を送る。  そのヒナタの目がナルトの手にある花束をとらえ、一瞬哀しそうに眉を下げた。偶然、バナナはシノ の体の影になっていて見えなかったのだ。  ナルトくん、誰かとデートなのかな? 女の子に花束とかあげるのかな?  そんな空気がヒナタの背中から漂っているのだが、もちろんニブチンなナルトや俗世からあまりに遊 離したシノにそれが分かるわけもない。  が、珍しくヒナタの視線がどこにあるのかを感知したナルトが、自分の手にしている花束を見下ろし て「あ」と声を上げる。 「おい、ヒナタ。こっち来いよ。なんでおまえはいつも俺から離れてるんだってばよ? 変な奴」  声をかけられて嬉しそうに微笑んだヒナタだったが、最後の変な奴のセリフに微妙な顔で歩く足を緩 める。 「へ、変?」  だがショックを受けている合間に、ヒナタの目にナルトが花束を差し出す。 「おまえにやる」  ぶっきらぼうにズンと目の前に差し出された花束だったが、その向こう側にはナルトの笑顔がある。 「……わたしにくれるの? サクラちゃんじゃなくて?」  つい出た言葉だったが、「サクラちゃん?」と首を傾げるナルトに、本音が出てしまったヒナタはハ っとして口を覆った。アカデミー時代からナルトがサクラに想いを寄せているのは周知の事実だった。 今も好きかどうかはわからないと、少し期待するヒナタだが、だからといって積極的にはなれず、いつ もナルトの側にいて、ドツキという過激ではあるがナルトとのスキンシップまで取れているサクラが羨 ましくてたまらないといったところだったのだ。  そんなサクラちゃんにではなく、自分にナルトの持つ花束が差し出されていることに、ヒナタは頬を 赤く染める。  おずおずと花束を受け取り、胸に抱える。 「あ、ありがとう」 「うん」  笑顔で答えるナルトだったが、不意にズイっとヒナタに顔を寄せる。  え? ナルトくん?  キャッと胸の内で叫んで目をぎゅっと閉じたヒナタだったが、ナルトがそんな顔を眺めながら言う。 「やっぱ花束は女の子が持つとかわいいなぁ。ヒナタに似合うってばよ」 「本当?」  その言外の意味が〈かわいい〉であることを期待して、花束を抱えて上目遣いでナルトを見るヒナタ。  だがナルトの言葉は。 「うん。だってこのちっこい花? カスミソウだっけ? 目立たなくて、チマっとしててさ」  そのナルトの解説に、喜んでいたヒナタの笑みが少し固まって困ったものに変わっていく。  目立たなくてチマっとしてるって、かわいいとはかけ離れてるけど……。 「でもさ、花束にはなくては困る花なんだろ? そんなところも似てるってばよ」  困った顔のヒナタが、チラっとナルトを見上げる。 「じゃあ、ナルトくんにとって、サクラちゃんの花のイメージは?」 「サクラちゃん?」  その問いにナルトがう〜〜んと唸る。だが数秒でポンと手を叩くと、指を立てて言った。 「食虫植物!」  大口を開けてバリバリと音を立てて虫を食べるサクラ花。 「それは恐ろしいものだな」  ポツリと呟くシノの声に、ヒナタがクスクスと笑うのであった。 「ところで二人が揃ってるってことは、キバは?」  辺りを見回して言ったナルトだったが、次の瞬間にナルトを含めた三人がサッとその場から飛び退る。  直後の三人が立っていた場所に降り注ぐ黄色い雨。  その上ではキバの笑い声と赤丸との鳴き声がする。 「よく気付いたな。赤丸のダイナミックマーキングだ!」  すっかりかわいらしい子犬からでっかい犬に成長した赤丸が、ワオンとキバに続いて鳴く。 「キバ! 赤丸のしょんべんを辺り構わず撒き散らすんじゃなねぇってばよ!」  登った木の枝の上でナルトが叫べば、赤丸の上のキバが高笑いをあげながら去っていく。 「忍たるもの、いつでも気を抜かずに過ごせよ!」  だがそう言ったキバが、木から木へと飛び移っていく赤丸の行動を把握しきれずに、ゴンと音を立て て頭を太い枝にぶつけたのはご愛嬌。  赤丸の上から振り落とされそうになりながら、キバが「うおおおお!」と痛みに悶えながら運ばれて いく。 「……キバくん。大丈夫かな?」  心配そうに呟いたヒナタに、ナルトが心配する必要なしと笑って木から飛び降りる。 「あいつの頭はそこらの岩よりも硬いから」  キバが去っていった森の中を見ながらいったナルトは、そういえばとついさっき見たことを思い出し て、すぐ隣りに木から降り立ったヒナタに顔を寄せて囁いた。 「なぁ、ヒナタ。一緒に行ってみないか? 森の中」  耳打ちしてニシシと笑っているナルトだったが、ヒナタビジョンでは、「二人に森にデートに行きま せんか?」と紳士に誘っているナルトに見えていた。 「一緒に?」 「おもしろいものが見れるってばよ」  思い立ったら即行動と、ナルトがヒナタの手を握って走り出す。 「え? ナルトくん……」  握られた手にドキンと胸をときめかせたヒナタ。  だが背後を振り返ったナルトが叫ぶ。 「シノも早く来いよ!」  ……シノくんも一緒か……。  随分とがっかりしたヒナタだったが、そんな自分が同じ班のシノを邪魔者扱いしてしまったと罪悪感 で顔を赤くする。  だがそんなヒナタの心の内は知りようもなく、木の上でクモの採集をしていたシノは、ナルトの言葉 に真顔ながら内心で感動して走り去っていく二人を見送っていた。 「俺のことも忘れないでいてくれたものだな、ナルト」 「ねぇ、おもしろいものって何なの?」  ナルトに手を引かれながら走ってきたヒナタが尋ねると、一際高い木の上に上ったナルトが見つけた 二人連れを指さしてヒナタにも木の上の来るように手招きする。 「なに?」  忍らしい身軽な動作で木の上に上ったヒナタが、ナルトより少し下で指さす方向を見下ろす。 「あれ。わかるか?」 「あ、シカマルくんと、テマリさん?」 「そう。あの二人ってば、つきあっちゃってるわけ?」 「さ、さぁ? わたし、そういうのあんまりよく分からないから」  まさかナルトと恋バナをすることになろうとは、ヒナタはドギマギしながら小声で返事を返す。 「あの二人の後つけてみようってばよ」  興味津々と二人の森の中を歩いていく後ろ姿をニタニタと見下ろしているナルトに、ヒナタは困った 顔を向ける。 「でも、人のデートをつけるのは」 「そうだ。人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死ねという」  いつの間に追いついたのか、木の枝に逆さまにつる下がったシノが言う。  それにナルトが言い返す言葉が見つからずに考え込むが、とってつけたような理屈で指を立てると言 う。 「えっと……邪魔じゃないってばよ。あの二人ってほっといてもくっつくと思うか? なんか二人して むっつりした顔して会話が弾むとも思えない。だから、このうずまきナルトさまの考えた大プロジェク トで恋のサポートをしちゃおうってんだってばよ」  言い訳で始めておきながら、言いながら段々その気になってきたナルトが力のこもった拳を突き上げ る。 「恋のサポート?」 「プロジャクトだというのだな」  なぜか説き伏せられたらしい二人が、あまり乗り気ではないらしいが反論せずにナルトの顔を見る。 「そうだってばよ。三人であの二人をラブラブカップルにしてやろうってばよ!」  ナルトが手を差し出せば、条件反射のようにその上にヒナタとシノの手が乗せられる。 「じゃ、大プロジェクト開始! がんばるぞ〜〜!」  ナルトの掛け声で、あまり気合の入らないラブラブプロジェクトが始動するのであった。
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