外伝 「キスの後」



6 え? もう一回戦?  〈幸太郎編〉
 はぁはぁと荒い息をついてベッドに倒れ込む。  体を支配するのは、甘く体を疲労させる高揚感と快感の余韻。  同じように荒い息をついているさゆりちゃんの胸が、大きく上下している。  幾つか自分のつけたキスマークが散らばる胸元が、呼吸で上下するたびにわずかにたわん で揺れる。  その横に身を横たえ、天井を見上げる。  さゆりちゃんとの最初のHだから抑えめに行こうと思ったわりに、しばらくの禁欲修行の 終了にたがが外れてしまったらしい。  心地よい疲労に身を委ね、そっと隣のさゆりちゃんに目を向ければ、目があってほほ笑み あう。  腕を伸ばして髪を撫でてやりながら、体を重ねた余韻を楽しむように、腕を枕をして抱き よせる。  その胸に、さゆりちゃんが甘えたように頬を擦り寄せる。 「幸太郎ちゃん、……すっごくよかった」  はにかんだ顔で言いながら、すぐ側にある胸にキスを落とす。 「それはようございました」  少し抑えのきかなかった荒い扱いであったような気がして反省していただけに、素直なそ の感想が嬉しかった。  男にとって、Hはしたいものでもあり、同時に自分の技量を試される試練でもあるのだ。  それだけに繊細だったりするものなのです。  でもどうやら、さゆり嬢には満足いただけたようで。  清潔な白と高級感のある蔦模様の天井を見上げながら、自己満足に浸ってみる。  今日は最高の一日になった。  朝からさゆりちゃんと一緒にいられて、プールで楽しめて、おまけに人の命まで救って、 さゆりちゃんに一人の人間として認めてもらえている実感を得られて、そのうえ大好きな人 と初めて結ばれたのだから。  ロマンチスト? まぁ、男なんてみんな口には出さないだけで、ロマンチストなものなの さ。  そう余韻に浸っていたそのとき、胸にされたさゆりちゃんのキスが、単なる愛情表現の枠 を超えて、チューと音を立てて吸い始める。  え?  実はまどろみ始めていた意識が一気に覚醒し、自分の胸を見下ろす。  と、そこには舌を這わせ、チュッと小さい俺の乳首にキスをするさゆりちゃんの小悪魔笑 顔。 「えっと、さゆりちゃん?」  尋ねる俺の前で、腹の上に馬乗りになったさゆりちゃんが宣言する。 「さっきの良すぎて、もう禁断症状きちゃったかも」 「え? だってまだ五分も経ってないけど」 「さゆり、すっごいHなの。幸太郎ちゃんも、その気にさせてあげるから、まかせなさい」  自信たっぷりに宣言して触れてくる指先に、思わず声を洩らしてしまう。 「さゆりちゃん、お手柔らかに」  そう言った俺に、さゆりちゃんが本性剥きだしで笑う。 「ヤダよん」  女豹パワー全開で襲いくるさゆりちゃんを前に、甘美を味わう生贄の気分で苦笑する、井 上幸太郎、女ったらしの汚名返上のある日のことだった。    <了>  
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