らぶりーデートになればいいな?

 
〈慎編〉
「明日遊園地行かねぇ?」  自然を装って言った慎の言葉に、隣りでCDを手に取って見ていた絵美が顔を上げる。  手に取っていたCDはジブリ名曲集。トトロがガオーと森の上をメイやサツキとを抱いて 飛んでいる。  こいつとは音楽の趣味も合わねぇな。  バリバリのロックやヘビメタを愛する慎には、まぁ、いい曲だとは思うがあえて買おうと は思えない曲だった。  そんな慎が遊園地と口にするのも、実はかなり無理があると本人は思っていた。  外見、もろバンドマン。金髪で、最近はちょっと伸ばして右のこめかみだけドレッドにし て縛っている。両耳にはピアスがズラリと並んでいるし、指にもゴツイ指輪がはまっている。 どんなに暑くても足元はいつも黒のブーツだってこだわりだってある。  どんな格好してようが、俺は俺。偏見なんて持つんじゃねぇよ。と豪語して白い目で見て 目が合いそうになると反らしてしまうような輩を嘲笑っていても、やっぱり自分でも一応演 じている部分があるのであって、その周囲の求めるバンドマンのあり方という自分の中の枠 から越えるのは、少し勇気がいったりするのだ。  その一。遊園地ではしゃぐこと。  そのニ。お子様な彼女と手をつないで歩くこと。  その三。人前で好物の大福を食べること。  明日はその全てを破ってやると意気込み、慎が絵美を見て「俺は別にどっちでもいいけど 、おまえがどうしてもって言うなら、連れて行ってやってもいいぜ」という無言の視線で微 笑む。 「うん。行きたい。慎ちゃんと一緒に遊園地なんて、絵美、嬉しすぎて鼻血出ちゃうかも」 「いや、鼻血は出さないでくれ。ってことで、明日は朝八時に迎え行くから」 「うん。絵美、お弁当とおやつ作ってくからね」  慎は予想通りの返答にCDを眺めるふりをしながら、内心でガッツボーズを決める。  やりぃ! これで計画の第一段階クリアだ!  今日はCDを買うのをあきらめた二人が、手をつないで店から出て行く。  その後ろ姿は、やっぱり彼氏と彼女というよりも、お兄ちゃんと年の離れた妹だった。 「絵美、ほら、ちゃんと足元、気をつけろよ」  何もないところで突っかかって転びそうになる絵美の手を握って助けてやりながら、ショ ーウインドに映った自分たちの姿に、慎がうっと顔をしかめる。  カップルには見えない。なにもかも。あえて言えば、ロリ趣味で幼女を誘拐しようとして いる極悪野郎。って、いやいや違うでしょう。まったく俺ってばおちゃめ。  自分で自分に突っ込みを入れながら、慎が頭を振る。  だからこそ、少しでも自分たちの関係を恋人らしく発展させようと慎は目論んでいた。  まずは。 『キスだ!』  慎は心の中で拳を振り上げて叫んだ。
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