らぶりーデートになればいいな?

 
〈絵美編〉
 いつも通り、学校帰りにデパートの中のCDショップに寄る。  絵美は慎がここへ来るときだけは、いつも歩調がうきうきと飛跳ねるようだと密かに思っ ている。  わたしだったら、一階の食料品売り場の方が大好きなのにな。あの、色とりどりに盛られ た野菜や果物の棚を遠目で眺めるだけで、心臓がどきどき、わくわくと音を立てるくらいな のに。  もちろん、一緒に食料品売り場を歩いたことなどなく、お菓子売り場や飲料売り場には目 的のものを買うためだけに入る。  そのお菓子売り場や飲料コーナーだって、じっくり眺めてラベルやデザインを鑑賞すれば 楽しいのに、慎ちゃんはいつだって「俺、コーラとポテチ。ポテチは絶対に塩味な」で終了 なのだ。絵美は、甘いチョコクッキーにミルクティー。それも「こっちにしようかな? そ れともこっち? えー、こっちのチョコはベルギーチョコだって。このミルクティーは深煎 りだってぇ。え? でも煎るって、コーヒー豆じゃないの? 紅茶の葉っぱも煎るの?」な んて会話をしながら選びたいのだ。  だが、もちろん、そんな葛藤を冷ケースの前でしている絵美は慎に放って置かれ、当の慎 本人は雑誌コーナーで立ち読みだ。  ついでに言えば、絵美はCDショップがあまり好きではない。自分が浮いてしまうからだ。 慎ちゃんはかなり店の雰囲気にジャストマッチで居心地が良さそうだけど、絵美は迷子の 赤頭巾ちゃんな気分で、狼だらけのCDラックの間をコソコソを移動するだけなのだ。唯一 狼は狼でも、自分には弱い慎だけが救いの綱で、見失ってなるものかと後ろをついて歩く。  絵美が唯一やすらげるのは、子どもの童謡コーナーなくらい。  ああ、ジブリだ。危険な森の中に現れた癒しスポットだぁ。  絵美は防護のアイテムを見つけた旅人のようにジブリのCDを手に取る。  とそのとき、隣りの慎が声をかけてくる。 「明日遊園地行かねぇ?」  一瞬、言葉の意味を取り損ねる。  だってここは日本ではなくて、未開の悪魔が住む森の中なのだから。日本語のわけがない。  そんな妄想の中で顔を上げれば、なんだか不自然なくらいな笑みを浮かべた慎ちゃんの顔 がある。  遊園地?  この魔物の森とはうって変わった、天使の集うふわふわの雲に囲まれた天上の世界。  この狼化している慎ちゃんから、遊園地なんて言葉が……。  だが絵美の妄想の天上の楽園遊園地の中で、両手をつないでくるくると回る二人が現れる。  ああ、ここでは狼みたいに野性味あふれる慎ちゃんも、天使の世界ではカッコイイ大天使 さまみたいに美しいかも。  だったらわたしは、天使に見出された美少女? 「うん。行きたい。慎ちゃんと一緒に遊園地なんて、絵美、嬉しすぎて鼻血出ちゃうかも」  絵美は大天使慎の姿に酔って頷く。  天使姿の慎が、絵美が手づくりした大福を持って微笑んでいる。 「絵美、お弁当とおやつ作ってくからね」  うきうきと背中に天使の羽が生えたように歩き出した絵美が、何かに躓いて転びそうにな る。  そしたら慎ちゃんが優しく手を差し伸べてくれる。  ああ、やっぱり慎ちゃんは悪魔の森の狼してるよりも、天上の楽園遊園地で天使様してい るほうが絶対に似合う!  絵美の妄想に犯された目には、慎ちゃんの背中にパタパタと羽ばたく羽が見えていた。
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