「ラブラブキューピッドになってやるぞの巻」


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     今日も朝から台所のガス台に乗ったやかんがピーと勢いよくお湯が沸いたことを告げて鳴り響く。  そのやかんがお湯を注ぐ先は、ペロンとフタがめくられたカップラーメン。  まだ半分目がまだ閉じた状態のナルトは、大あくびをして伸びをする。  すでに窓の外にある太陽を中天にさしかかっている。  お湯を注いだカップラーメンの上に箸をおいて、テーブルにつく。  無意識のままに牛乳をグラスに注いで、ゴクゴクと飲み干す。口の端から零した牛乳が顎から滴るの を、手の甲でグイっとぬぐって、やっと目が覚め始める。 「……なんか酸っぱいかなぁ? まぁ、いいや。……早く三分経たないかな〜」  起き抜け一番のラーメン。かなりヘビーな朝食。ついでに昨夜の夕食もラーメン。  カカシが書いた「もっと野菜を食べよう」の標語は、見事にその上に掛けられたもので隠されていた。  標語を隠していたもの。それはサスケが残していった額当て。  天地橋でのサスケ奪還作戦でも渡すことのできなかった額当ては、今もナルトの手元で保管されてい るのであった。  開け放っていた窓から風が吹き込み、額当てを左右に揺らす。そして壁に当って、カランと澄んだ音 を立てる。  それを振り返ってみたナルトの顔が、瞬間哀しげに曇る。  だがすぐにギュッと握った拳を見下ろし、心に刻んだ決意を思い返す。 「焦ることねぇってばよ。今はサスケよりも強くなって、大蛇丸の手から必ず救い出すんだ」  そう呟いたナルトの目に、カカシの野菜を食べよう標語が目に入る。が、とりあえず速攻で目をそら す。 「今日も一日がんばるぞ〜。その前に腹ごしらえ」  ラーメンを食べ終ったら、カカシ先生のお見舞いにでも行こうと思うナルトだった。 「カカシ先生、お見舞いに来たってばよ」  カカシのために買ってきたのであろうはずのフルートセットのバナナを食べながら、部屋に入ってき たナルトが言う。  カカシはいつものごとく、18禁小説「イチャイチャバイオレンス」の読書中だ。 「お、ナルト。手ぶらで来ないなんて珍しいな」  イチャイチャバイオレンスからチラっと目だけを上げたカカシが、フルーツセットに目を向けて言う。 「うん。前に入院したときにシカマルがもって来てくれたなぁって思い出して、あれがまた食べたくな ったから」 「じゃあ、なにか? それは俺への見舞いじゃなくて、自分のためだと?」 「一緒に食べればいいんだってばよ」  ニヘラと笑ったナルトに、そんなことだと思ったよと本を閉じるカカシだった。 「先生の退院はいつになるんだ?」 「明日には出る。そしたらおまえの修行開始だ」 「待ってましたぁ!」  リンゴを丸齧りしながら、ナルトがガッツポーズを決めて言う。  だがいつものやる気と元気に満ちた顔が真顔に変わり、歯型のついたリンゴを見つめる。 「俺、本当にサスケよりも強くなれるかな?」  再び読書中だったカカシが顔を上げることなく、ナルトの漂わせる気配だけを辿って言う。 「強くなってもらわないと困る。せっかくおまえのために最強の修行法を考えたんだからな。それにサ クラもなんだか知らないが、朝からバタバタ走りまわってがんばってるらしいぞ」 「サクラちゃんが?」  一緒にサスケを救い出そうと言ってくれたサクラも、新たな戦いを前に修行を開始したのだろうか?  途端にソワソワし始めたナルトに、カカシは本の文字を追いながら笑みを浮かべる。 「大丈夫だ。おまえには明日から吐くほど厳しい修行が待ってるんだ。今日は猶予の一日だ。遊んで来 い」  そう言ってカカシはナルトの持ってきたフルーツセットからオレンジとバナナの房を投げて寄越す。 「それでも手土産に会いにいってくれば?」  危うい手つきでオレンジとバナナを腕の中に捕らえたナルトだったが、カカシの心遣いに「うん」と 頷く。  が、すぐにフルーツセットのバスケットの中に一番高いメロンが残っているのに気付いてカカシを見 据えた。 「先生、なんでメロンは残してるの?」 「ん? だってこれは俺へのお見舞いなんだろ。だったら一番食べたいものは残しておこうと思ってな」  さっさと行けと追い払うカカシに苦笑を残し、ナルトは一路サクラの実験室に向うのだった。
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