第一章 鳥かごの中で牙を剥く、美しき姫


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◇ お父様へ ◇  わたくしクリステリアは、自分の将来を見つめるために家出をいたします。  わたくしも王家の者として、王位を継ぐ覚悟、子どもをなす覚悟をもっております。ですが、そのわ たくしの将来をともにする夫を決めるのには、ただお見合いでお会いしただけでは、とてもではありま せんがエアリエル王国に相応しい、わたしくしを本当に愛してくださる方であるかなどわかりません。  そこでわたしくは一つ各王子様たちに課題を課したいと思います。  それは。 「わたくしをその胸に抱える愛情と、溢れる知性と、エアリエルを守る力をもって見つけだしてあそば して」  手紙の一文を読みながら、ランドビンス王は大きくため息をついた。 「なにかはやらかすだろうと思っていたが、まさか家出とはな」  そして最後の一文に目を通して再びため息をつく。  そしてわたくしを見つけ出した王子様には、わたくしへの愛のたけを行動でしめしていただきたます。 わたくしの胸に恋の歓びを教えてくださった方こそが、我が夫に相応しい方と認めます。 「あの姫を、なにをして喜ばせればいいというのか……。恋のロマンスなどとは、一番程遠い性格をし ていながら、いっぱしにラブロマンスには憧れておるとはな」  うんざりしたように呟く王に、宰相エリスンが横から気の毒そうに声をかける。 「各国王子たちにはその旨、書簡でお伝えしましょう」 「姫が家出したので、探し出してくれとか?」 「まさか」  自分の立てた計画が大事件へと発展しているのをみて、すっかり気落ちしているらしい王に、宰相は 光り輝く頭を示して言う。 「王家に仕え、幾多の困難に立ち向かうために髪の一本も残さずに忠誠を示してきました、このわたく しにおまかせを」  王は宰相の頭を気の毒そうに見やると頷いた。  かつて髪があったときに、その数百本をクリステリアが毟り取ったのを思い出す。この宰相の頭が禿 げ上がってしまったのは、政務という激務によるストレスもあるだろうが、あの毟り取り事件が発端で あったような気がしてならなかった。 「おまえにはあの子のことで何度苦労をかけることか」 「それこそ今さらでしょう。姫との知恵比べと思って楽しんでおりますのでお気になさらず。もう思い 残す髪もありませんので」  そして宰相が各国に送った書簡によって、お見合いは一変、姫獲得のための一大イベントと化するの であった。 『エアリエル王国を王として治めることになる王子には、知性と力、そして国、民、そしてなによりも 姫を愛する気持ちが誰よりも優れていることを示していただかなければならない。  それを証明する機会として、全ての王子に公平を規する試練を課すことを、ここに通知する。  エアリエル王国のある場所で才気ある王子を待っているクリステリア姫を見つけ出し、彼女に認めら れた者には、誰であろうと姫と結婚し、エアリエル王国を継ぐ権利を持つ者とすることを認める。  姫のため、エアリエル王国の将来のために命を賭す覚悟のある青年を心よりお待ちしている』
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