らぶりーデートになればいいな?

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〈絵美編〉
「よし、お弁当もおやつも完成」  足元で俺にもくれとねだっているフレンチブルドッグのジェンキンスに、タコさんソーセ ージ作りで失敗した切れ端を分けてやる。  それをよく味わいもせずに飲み込んでしまったジェンキンスに「もう、ちゃんと味わって よ」と文句をいいつつ、絵美はご機嫌でお弁当をしまったバスケットを抱える。  そして時計を見上げて「ああ!!!」と大きな声を上げる。  その突然上がった声に、隣りの部屋でテレビを見ていたお父さんがキッチンへと顔だけを 覗かせて「どうした?」と聞いてくる。 「のんびりお弁当作りすぎちゃったよぉ。慎ちゃんが来ちゃう!」  時計が示した時間はすでに七時四十五分。  そして絵美の格好はと言えば、起き抜けの髪をおさげにしただけで、服も部屋着のヨレヨ レTシャツと小学生の時のショートパンツだった。 「なんだぁ。朝から弁当作ってるから、父さんのだと思ったのに、あの金髪兄さんのか」  少しおもしろくなさそうに言ったお父さんに、絵美が足に纏わり付いてくるジェンキンス とお父さんを見比べながら笑う。 「お父さんまでジェンキンズと同じでおこぼれ欲しがるんだぁ」  笑って言う絵美に、お父さんが丸めた新聞を振り上げて怒ってみせる。 「絵美! お父さんとジェンキンズを一緒にするなぁ!」 「ワンワン」  お互いに抗議しあっているようなお父さんとジェンキンズに、絵美はますますおかしくな って笑い声をあげる。  とそのときに鳴った玄関の呼び鈴に、絵美は「あ!」と声を上げて走っていく。  時間がないと思っていたのに、お父さんと戯れて時間を無駄にしてしまった。 「はいはい、慎ちゃん、ごめんね。まだ準備できてないのぉ」  言いながら玄関を開けた絵美に、今日もばっちし決まった慎ちゃんが目を丸くする。  あ、このヨレヨレTシャツは慎ちゃんに見せたくなかったなぁ。完全に呆れた目してるし ……。  自分の格好が急に恥ずかしくなった絵美は、抱えたバスケットで隠しながら慎を上目遣い で見上げる。  だがそこにあった慎の顔が予想外に輝いているのに気付く。 「いい! 絵美、今日、おまえショートパンツでお出かけ決定な」  慎ちゃんの目が絵美の足を見つめて輝いていた。  そういえば、学校でも絵美はそんなにスカート短くしてないし、必ずハイソックスはいて るから、足出してたことってないんだな。  絵美がそんなことを考えていると、慎が絵美の手を取る。 「おまえのコーディネートは俺に任せとけ!」 「え? あ、うん」  慎が絵美の手を掴んで絵美の部屋目指して歩き出す。  そしてひょっこりと顔を出しているお父さんに気付くと、「お邪魔します」などと頭を下 げる。  それに気の弱いお父さんが「いらっしゃい」などと笑顔で言っている姿に、絵美は気を良 くしてスキップしそうな足取りで歩いていく。  ジェンキンスも慎ちゃんに抱っこ抱っことねだっている。  そうなのだ。我が家はみんな、慎ちゃんのファンなのだ。  足元のジェンキンズを抱き上げて口を舐められて顔をしかめる慎を見上げながら、絵美は 得意満面だった。
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