らぶりーデートになればいいな?

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〈慎編〉
 朝、目覚まし時計が心臓をぶち破るかと思うほどの強烈な鐘の音を鳴らす三秒前に目が覚 める。  三秒前、目が開く。  二秒前、ガバッと布団を跳ね上げ、腹筋で起き上がる。  一秒前、振り向いて漫画で溢れた棚の上の目覚し時計に手を伸ばす。  ジリジリと音を上げ始めた目覚し時計の上を叩き、停止。  奇跡だ。  慎はすっきりと晴れ渡った気分でにんまりと笑う。  慎の寝起きの悪さは自他共に認めるものだった。なんといっても、子どもの頃、最高睡眠 時間20時間を誇る、眠り王子なのだ。  その自分が、目覚し時計なしで、こんな朝早く、六時に目を覚ませるなんて奇跡に他なら ない。  人間やればなんでもできるもんだな。  そんな感想を持ちながらベッドから下りると、足元に散らばった雑誌や漫画、脱ぎ散らか した服を踏みながら窓辺へと寄っていく。  そしてカーテンを思いっきり勢いよく開ける。  シャーというカーテンレールの立てる音が小気味よく、窓の外から差し込む熱い太陽の光 もまぶしいほどに世界を輝かせていた。 「いやぁ、日頃の俺の行いがいいから、天気まで俺の計画に合わせて晴れてくれてるわ」  都合よくそんなポジティブシンキングで頷く。 「さぁ、メシくって、バッチシ決めて絵美迎えに行かねぇとな」  そう言って部屋を出て行く壁際には、昨日の夜さんざん悩んでコーディネートした服が下 がっていた。  そう、ゆうに一時間以上はああでもない、こうでもないと悩んで服を撒き散らしたのだ。 その結果が今の惨たんたる部屋の状況なのだが。  いつものハードな男を気取った格好もいいが、やっぱり遊園地には浮きまくる。何より、 あのショーウインドに映った絵美とのアンバランスを少しは解消したい。って、そんなの無 理じゃん。あのお子様絵美は、遊園地って言えば、絶対にフリフリのロリみたいな格好しそ うな気がするんですけど……。じゃ、俺はどんな格好すれば絵美と吊りあうわけ?  と悩んだ末に、選んだのはいつもと大して変わっていなかったりするのだが、ウォッシュ をかけたジーンズにVカットのTシャツ。そこにサングラスといつもよりは大人しめなピア ス。ネックレスはお気に入りのジャスティン・デーヴィス。 「何あんた、珍しく早起きじゃん。槍でも降んじゃない?」  部屋から出たところで会った慎の姉の言葉に、慎は「うるせぇ」と返事をしながら、それ でもいつもより声が柔らかいのは、すでに気分は遊園地モードだったからだった。
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