らぶりーデートになればいいな?

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〈絵美編〉
「慎ちゃんお待たせ」  絵美はごきげんでゲートをくぐると、慎の元へと走りよる。  絵美の後にはかわいらしい仔馬や馬車が並んだメリーゴーランド。  午前中は絶叫系で楽しんだので、午後はちょっとかわいらしいコースに行きたいなと思っ ていた絵美は、コーヒーカップ、回転ブランコ、メリーゴーランド、と、ことごとく回転も のをこなしていたのだが、そのたびに慎ちゃんは「俺はいい。絵美の写真撮りたいから」な どと言って乗ってくれない。  でも、さっきも仔馬に乗って目の前にやってくる度に慎ちゃんはデジカメで絵美の写真を 撮ってくれていたし、手も振ってくれたからいいんだ。  絵美は慎と手を繋ぎながら笑顔で思う。  そして見上げた隣の慎の顔が少し青いのにも気づかず、笑顔で自分を見下ろしてくれる慎 に微笑み返す。  今日は本当に幸せだなと慎の腕に顔を擦りよせながら思う。  遊園地で思いっきり遊べて、すごくいい天気の青空の元で慎ちゃんと仲良く手を繋げて、 お弁当もおいしいって全部食べてくれて。そうそう、側でお弁当広げていた家族の男の子が タコさんソーセージが欲しいっていうから、少し分けてあげたんだ。その時も慎ちゃん、そ の男の子にすっごく優しくて、「遠慮なんてしなくていいだよ。このお姉さんはすごくお料 理が上手で、一口食べたら、もう病みつきでもっと食べたいってなっちゃうから、たくさん 持って行けよ」なんて、優しく分けてあげていて、ちょっと見直しちゃった。だって、どっ ちかっていうと、金髪だしイケメンゆえのオーラなのか、子供には「こわい」って逃げられ ちゃうタイプだったから。 「慎ちゃん、今度は一緒に乗ろうよ」  手渡されたデジカメの絵美激写写真を見ながら、甘えた声で見上げれば、慎の眉がピクリ と跳ねる。 「一緒に? ああ、まぁ、いいけど。じゃあ、俺が選んでいい?」  幾分挙動不審な慎だったが、絵美はかわいく撮れていた写真に気を良くしてほほ笑む。 「うん、いいよ」  それにあからさまにホッとした顔になった慎が、辺りを見回して指さす。  そこにあったのは………。 「え? あれ?」  今度は絵美の顔が引きつる。そして一気に涙目になる。  そうそれは。 『恐怖、血ぬられた館、ドラキュラ城。入った者は生きては出られぬ』  しかも中から明らかに恐怖で上げているのだと分かる、女の人の悲鳴が聞こえてくる。 「え、絵美、ちょっとお化け屋敷は……」 「お化け屋敷違うし。ドラキュラ城じゃん。ドラキュラはお化けじゃないだろ。う〜ん、怪 人? えっとモンスター?」  そう言ってニコっと笑った慎ちゃんの口元で、犬歯が覗く。  あぁ、慎ちゃんがドラキュラに見える……。  あ、そうか。ドラキュラってイケメンじゃないと、似合わないかも。  そんなことを想っているうちに、腕を引かれて歩きだした絵美は、しっかりドラキュラ城 の列に並ばされてしまう。  ちらっと列の先を背伸びしてみれば、なんと棺桶型の乗り物に乗って、真っ暗な大きな門 の中に、今ちょうどカップルが吸い込まれていくところだった。  絵美の脳裏には、その棺桶の中いっぱいに飛び散った血と、その中で敢え無く息絶えた二 人が横たわる姿が思い浮かぶ。その棺桶の上から飛び立つ、黒いマントをはおったドラキュ ラ伯爵。  きゃあああああ!! 「次の方どうぞ」  目の前で係員のお兄さんに言われ、絵美がハッと顔を上げる。  もう自分が棺桶に乗る番になったってるのぉ?  先に乗り込んだ慎ちゃんが、「ほら、絵美」なんて嬉しそうに手を差し伸べてくれる。  その手を頼りにそっと棺桶の中に乗り込む。  きっと絵美たちもドラキュラ伯爵の襲われて、首から血を流して死んじゃうんだ。  ぎゅっと慎の手を握りながら、絵美は「大丈夫だって」と笑っている慎ちゃんの横顔を眺 める。  ここにもハンサム・ドラキュラ王子がいる。  きっと闘って絵美を守ってくれるよね?  その思いに応えるように、慎の手が絵美の手をぎゅっと握った。
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