「純白の誓い」


 白い色のイメージ。
 ふあふあの綿毛。マシュマロ。洗いたてのシーツ。新しいノート。
 純粋。汚れなき魂。永遠。
 憧れてやまない、ウエディングドレス。



「おまえ、何かいてるんだよ」
 休み時間の合間に描いていた絵を覗き込まれ、リオはノートの上に身を伏せた。
「ダメ。見ないで!」
 となりの席になって以来、ずっと事あるごとにちょっかいを出してくる亮太。
「いいじゃねえかよ。貸せ!」
 ノートを引きずり出そうとする亮太に必死に抵抗したリオは、次の瞬間ビリという音を立ててやぶ
れた絵に手を離した。
「おおおお!!!」
 その拍子に亮太が勢い余ってノートを握ったまま勢いよく後ろに転んだ。
 たくさんの机やイスを押し倒しながら、盛大に本人も転がって床に頭をぶつ。
「亮太、何やってんだよ!」
 周りから上がる揶揄の声に、うるせえ!と反論しつつその顔には終始笑みが浮かんでいた。
 だが、床から起き上がって見た視線の先で、リオが両手で顔を覆っているのを
見た瞬間、その笑みが消え失せた。
「リ、リオ?」
 震えている肩が、リオの涙を伝えていた。
「泣くなよ、おい」
 リオの机の横で膝立ちになった亮太に、リオは頑なに顔を覆って、声なく泣くばかりだった。
 亮太は途方にくれて、手の中の絵を見下ろした。
 天使の羽が舞い散る中に、純白のドレスを着た女の子が、笑顔で立っていた。
 だがそのドレスがスカートが、破れたノートのせいで途中からなくなっていた。
「悪かったよ。ゆるしてくれよ。な」
 謝る亮太のまわりで非難の声と揶揄が上がる。
「やーい、亮太がリオを泣かした〜」
「デリカシーがないのよ。亮太は」
 そんな周りの声に、チっと舌打ちした亮太だったが、泣き続けるリオを見やり、大きくため息をつ
いた。
 そしてそっとリオの耳元に口を寄せると言った。
「泣くな、リオ。俺がおまえに本物のドレスきせてやるから」




 今、リオは夢だったドレスを着ていた。
 10秒前まで、リオは最高に幸せだった。
 憧れの純白のウエディングドレス。
 だがその真っ白なドレスの上に、赤い肉汁を滴らせたステーキが落ちていた。
「あぁぁぁぁぁ!! やべえぇぇぇ!!」
 フォークから落とした肉を見つめ、亮太が叫び声を上げる。
 純白で汚れなく、美しく………
 リオはご丁寧に白い手袋をはずすと、その肉をつまんだ。
 そしてその肉をとなりに座る亮太の口に押し込むと、不敵に笑った。
「あのときの破れた絵は、この予言だったのね」
 ゴクリと肉を飲み込み、亮太が蒼白な顔でリオを見つめた。
 リオの口から盛大なため息がこぼれる。
「あ〜あ、しょうがない。こんな男を好きになっちゃったんだから」
「そうだよな」
 安堵と情けなさに沈んだ亮太。
 その亮太に、リオがほほえみを浮かべる。
「ドレスなんていいよ。わたしたちの愛が永遠に純粋であり続けられれば。ね?」
 
 白のイメージ。
 ふあふあの綿毛。マシュマロ。洗いたてのシーツ。新しいノート。
 純粋。汚れなき魂。永遠。



 永遠の愛


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