かわいい「アイツはピンク色」




 朝の靄を含んだ清々しい空気。
 その中を一陣の風が吹き抜けた。
「臭え・・・」
 寝癖だらけの寝ぼけ眼のまま、修一は呟いた。
 その目の前にあるのはブタ小屋。
 肩に背負った三つ又を手に、修一はため息をついた。


 農大に入ったのは、実家が農家だからでも、未来の農業に情熱を燃やしているからでもない。
 ただ単に、ここしか受からなかったのだ。
「ブタは繊細だからな。世話当番をサボればすぐに分かるからな」
 先輩の忠告を守り、こうして朝早くから来てみたが、やっぱり嫌悪感が強かった。
 早くも餌くれ当番が来たことを察知したブタたちが、小屋の中で騒いでいる。
「はいはい。やりますから」
 自分を見つめる真剣な瞳と、訴えかける鳴き声に、修一は仕方ないと小屋の中に入った。
 えさ箱にえさを入れてやる。
 とたんに殺到したブタに、修一は弾き飛ばされた。
 壁に盛大に頭をぶつけ、藁まみれになりながら、床に転がる。
「・・・・はぁ〜」
 怒りよりも、情けなさがこみあげ、ため息しかでなかった。
「なにがピンクのかわいい子ブタちゃんだよ」
 われ先にと顔つっこんで食べる大きな体のブタたちに、修一は悪態をつく。
「豚肉にして食べてやるぞ!!」
 そう叫んで立ち上がったとき、修一は大きなブタたちの後ろで、えさにありつけずに右往左往
している子ブタをみつけた。
 かなしげに涙まで浮かべたその顔に、修一は思わず笑い声を上げた。
 そしてえさを片手に握ると、その子ブタの前に手を差しだした。
 ピンクの子ブタが、一瞬警戒とともに修一を見上げた。
 そして「プピー」とお礼を言って手からえさを食べ出した。
「かわいな。お前」
 修一と子ブタの間にあたたかな空気が流れていた。


 その後、修一は決して豚肉を食べなくなったのだった。
「だって、ブタってかわいいぞ。かわいいピンクの子ブタだぞ」


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