「恋は水色」


 

「恋は水色っていうでしょ?」
「え? そうなん?」
「うん。どこかで聞いた気がする」
 ベットに寄りかかって床に座る二人が、おのおの雑誌と漫画を手にしていた。
 幼馴染のめぐみと祐樹。
 高校生になっても家を行き来する関係は変わっていなかった。
「なんで水色なのかな?」
「さあ、俺に聞くなよ」
 熱心に漫画のページをめくる祐樹を、めぐみはおもしろくなさそうに見ていた。
「・・・恋したことないの?」
「は? なんだよ急に」
「別に」
 プイとそっぽを向いためぐみに、祐樹は困ったように眉を掻いた。
「恋がなんだって?」
 不機嫌そうに口をとがらせためぐみが、チラっと振り返る。
「興味ないんでしょ?」
 その顔に苦笑を浮かべつつ、祐樹は曖昧に首を傾げた。
「聞けば興味わくかもしれないじゃん」
 じゃあ、話して上げる。そんな表情で、めぐみは大きな動作で祐樹に体を向けた。
 その動きで短いスカートがはらりと舞う。
 それを視界の隅に捉えながら、ちょっぴりドキっとした気持ちを脇においやる。
「あのね、恋は水色なんだって。ちょっと不思議じゃない? 恋って、もっとバラ色とかさ。
明るい色の感じがしない?」
 女の好きな恋バナか・・・。そう思いつつ、祐樹は思案顔で考えた。
「恋は水色ね。・・・透明ってことなんじゃね?」
「透明?」
「うん。相手を透き通った水の向こうに見るくらい、本当の姿で愛せているなら、それは
恋ってさ」
「本当の姿・・・」
 そこで、二人は考え込んだ。
 理想の押し付けでもなく、素顔の相手を知ることができている人っていえ
ば……。
 そして二人は互いを見つめた。
 沈黙ののち、二人は頬を染めて目をそらした。
「なんだよ!!」
「そっちこそ!」
 二人の床に並んだ指の距離は、ほんの数ミリだった。
 そして心の距離も。



 <恋は水色>


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