エピソード  1

ゲーム 裁きの天秤・オープニング

 荒野の草が、強い風圧に激しく地面に叩きつけられる。
 爆音を立ててヘリが上空を旋回する。
 そのヘリから、ロープが何本も落下した。
 そのロープを伝って、濃い色の迷彩服をきた兵士たちがすべり降りてくる。
 そして一様に地面に降り立つと、警戒した低い姿勢で、手にしたライフルやマシンガンを構えた。
 兵士たちの一人が上空に向かって合図を送る。
 その合図でヘリは方向を変えて飛び去っていく。
 残された兵の数は6人。
 周囲の空気を探知機で検査した一人がOKの合図を出す。
 その合図で、兵たちは頭を覆っていたマスクをはぎ取った。
 兵の一人は、長い黒髪を後ろで結わえた女だった。
 兵を率いるリーダー格の男の合図で、全員がその男を囲んだ。
 リーダーは腕に搭載したコンピューターを起動させると、一帯の地図を表示させた。
 標高の高い山を覆う森と、その奥にある村。その村の側に、現在位置を示す緑色のランプが明滅して
いた。
 男が兵を2グループに分けると、手信号で支持を出す。
 兵は敏速にその指示に従って二手に分かれると、森を迂回して村へと至る道を駆け抜けていった。



「どうして我々に召集がかかった?」
 女はマシンガンを抱えた警戒態勢で歩きながら、隣りに立つ男に言った。
「警察の手にあまる問題だからだろ。村との交信が途絶えて1ヶ月。様子を見に行った警察官らは戻ら
ず、衛星からの映像で不穏な動きを発見。どうやら特異な病気の発生で村が全滅した恐れがある。それ
で我らがセラフィムにお声がかかった」
 男は胸にある天使が羽を広げたエンブレムを叩くと言った。
「自然界の調和を旨とした疫学研究チーム。我らがセラフィム」
 男と女は拳を打つ合わせると、緊張した顔に笑顔を浮かべて一瞬目を合わせた。
「おかしいな」
 もう一人の男が言った。
 二人よりも年長だろう白髪の混じった短髪の男が、周囲に目を配りながら言う。
「生き物の気配がない」
「まるで死の森ね」
「鳥の鳴き声も、小動物の動く気配すらない。昆虫さえも」
「何があったの?」
 その時だった、遠くで銃声が響いた。
 続いてマシンガンの掃射の音と、男たちの怒号の声。
 無線を手にした男が叫ぶ。
「応答しろ。こちらアルファーチーム。何があった?」
 だが返って来るのは狂気したような悲鳴と怒号、マシンガンの炸裂する音に山道を走り回る足音だけ
だった。
 三人は顔を見合わせた。
「戻るか?」
 女は年長の男に意見を求めて振り返った。
 年長の男は腕のコンピューターを見ながら、逡巡したあと、首を横に振った。
「いや、指示通りに進む」
 女と男はその指示に否を唱えることはなかった。
 男の見るコンピューターの中に、仲間の位置を示す光点を見たからだ。
 一つ、二つと消えていき。
 ついに銃声がやむのと同時に最後の光点が消えた。
 一体何があったのか?
 三人は立ち尽くして音が消えた方向を見やった。
 そしてその視線の先、森の中が赤く発光しているのに気付いた。
 森の中の地面一面を覆う赤い花。
 吹き付ける風を背中に感じながら、三人はその花に見入っていた。





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