「ラブラブキューピッドになってやるぞの巻」


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「ほーんと、あんたってバカよね」  改めて力いっぱいに言われるサクラの言葉に、頭からホカホカと湯気を立てるナルトがうな垂れる。  首に巻いたタオルを掴みながら、チラっと隣りを見れば、うるせぇ女だと面倒そうな顔をしているシ カマルからも湯気があがっている。  二人で赤丸のしょんべんを落としに、風呂に入ってきたのだ。  そしてみんなが集まっているというサクラの研究室に足を運んだのだ。  サクラがシカマルとテマリが採取してきた花を大きなガラスの瓶に詰め、下から火であぶっている。 そのせいで、部屋の中には花の匂いが熱せられた蒸気と一緒になって濃厚に漂っていた。  その花を燻した蒸気を管を通して集め、今度は水で冷却して液体に戻す。  それがポタンポタンと時間をかけながら小さなビーカーの中に落ちていく。 「これがすっごい効果の美白剤になるんだから」  花の香りを楽しむように手で煽ぎながら、サクラが背後に集まっている面々に自慢げに言う。 「あんなにたくさん摘んできて、それっぽっちしか採れないんだな」  腕組みしたテマリが言う。  それもそのはずだ。赤丸のしょんべんにまみれたナルトや意識を取り戻したヒナタも総動員して籠に 10杯分も花を採ってきたのに、今サクラが手にしているビーカーは。ほんの10mlで、花から採っ た液体はその半分にも満ちていない。  ちなみに、その10個もの籠はシカマルが巻物に封印して持ってきたものだった。 「そうよ、だからとっても貴重なの。でも、そのぶん効果は抜群」  そのサクラの一言に、テマリが優しく微笑む。  それが我愛羅を思う姉の笑顔であるのに気付き、ナルトは我愛羅を羨ましく思って見るのであった。 「はい、どうぞ」  出来上がったクリームを瓶につめ、サクラがテマリに手渡す。  テマリの手に乗っているの瓶は二つ。 「我愛羅くんの分と、テマリさんの分」  そしてサクラの手には残りの一瓶。  それをヒナタがもの欲しそうに見つめる。  それに気付いたサクラがヒナタを見て、瓶を掲げてみせる。 「ヒナタも欲しい?」  それに遠慮したのか、ヒナタがふるふると首を振る。 「わたしはいい」  そう言って手にしていた花束をぎゅっと握る。それはナルトに貰ったバラの入った花束だった。時間 が経って少しくたびれた感のある、クタッとした花だったが、ヒナタは大事そうに見つめる。  熱のこもった目で花束を見下ろすヒナタに、サクラの目がチロっとナルトを見るが、こちらは全くヒ ナタの気持ちになど気付いた様子もなく、クンクンと自分の服の匂いなどかいでいる。  それを見て、サクラははぁとため息をついた。 「……ヒナタ。あんたも本当に物好きよね。よりによって、こんなのがねぇ」  言われたヒナタが、酷く慌てた様子で周りを見渡す。そしてナルトを除く全ての目がサクラの言った 言葉を理解した目をしているのに気付いて、花束に顔を隠すようにしてうな垂れた。 「ちょっと、ナルト。ヒナタに上げた花、枯れかけよ」  サクラが気を利かせたように言うと、ナルトがうな垂れているヒナタに気付いてその頭を撫でる。 「ヒナタ、大丈夫。俺、約束忘れてないってばよ」  花が枯れたかけていることに落ち込んでいると思ったナルトが笑顔でいう。 「なによ、約束って」  サクラが意地悪く眉を跳ね上げる。 「ん? ヒナタとデート」 「え? デート?」  ナルトの口から出るとは思ってもみなかった言葉に、サクラの方がびっくりして声をあげる。 「へぇ、あんたがねぇ」  サクラが、鈍感ナルトがヒナタの気持ちに気付いているのだろうかと訝しげな目を向ける。  と、その視線に何を勘違いしたのか、ナルトがニヤっと笑う。 「そんな顔しなくたって、サクラちゃんとだってデートするってばよ」  やっぱり分かってなかったか。  サクラは明らか落ち込んで肩を落とすヒナタを思って、ナルトの頭にゲンコツを落とす。 「イタ!」 「このボケナルト!」  何を怒られているのか分からないで頭を抱えるナルトを眺めながら、シカマルが苦笑し、テマリが 「バカチビは健在か」と鼻で笑う。 「じゃあ、わたしはここで失礼する」  言ってサクラに礼を述べて出て行こうとするテマリに、シカマルがついて出て行く。 「俺は正門まで送ってくるわ」  そう言ってドアから出た瞬間、シカマルの手がテマリの手を取る。そしてその手を自然に受け入れて 歩き出すテマリ。  が、その肝心な瞬間をナルトはやっぱり見逃すのだった。 「なぁ、ヒナタ。サクラちゃんは何を怒ってんだ?」 「………さぁ、どうしてかなぁ?」  目をあさっての方向にさまよわせて言うヒナタに、ナルトが本気で首を傾げる。  ラブラブキューピッドになるんだったら、まずはお前が恋愛の達人になってみろと言いたい、サクラ なのであった。 「あ、でもナルトには無理か。もてないもんね」  そう言いつつも、ナルトがヒナタになびいていないことに安心したことには、サクラも気付いてはい なかった。 「さぁ、わたしはサスケくんが帰ってきたらいつでもお嫁にいけるように、キレイにならなくちゃね」  そう言って、出来上がったクリームを顔に塗るサクラなのだった。 <了>
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