「一楽ラーメン、世界一だってばよの巻」



<中編>
 ラーメントライアル会場に張られたテント前は、長蛇の列を作っていた。  出店は10店舗。中でも当初から優勝候補された木の葉代表一楽と、砂の代表店万楽の一騎打ちとい う様相を呈していた。 「いらっしゃいませ〜〜」  サクラの弾んだ声が店の中に響く。  どこから調達してきたのか、レースのフリフリエプロンを身につけたサクラは、いつもの怪力即ギレ キャラからは想像できない高い声で愛想よく客を迎えている。 「ネコ、百匹は被ってるってばよ……」  その横を食べ終わったドンブリを抱えた歩くナルトが呟く。  が、もちろん無傷で通してもらえるはずもなく、力いっぱい足を踏みつけられて叫び声をあげる。 「いぎいぃぃぃぃぃ!」 「コラァ! ナルト。何お客さんの前で奇声発してる! さっさと片付けろ!」  すかさずテウチ師匠の怒声が飛ぶ。 「……ハイハイ」  サクラを横目で睨みならがも、テウチの声にしたがってナルトがドンブリを流しに運んで洗い始める。 もっぱらナルトに割り当てられたのは洗い物だ。  サクラは接客。ナルトが皿洗い。そしてサイはというと。  トントントントントントン。  元来の細かい性格があっていたのか、ひたすらにネギやチャーシューを一ミリの狂いもなく正確に切 っていく。  隣りで麺を湯がき、スープを作っていくテウチの作業を見事にサポートして、注文に応じたトッピン グをしていく。まるでラーメン製造補助マシーン。笑顔はなし。 「百人目のお客様で〜す!」  サクラが他店にも聞こえるように報告する。  店の中でも列を作る客の中からも拍手が起こる。  それに自分が褒められたように照れて頭を掻いたサクラだったが、すぐにその顔がライバル意識剥き 出しで顰められる。 「こちとら101人目!」  隣りの万楽からも声が上がる。 「クソ! あっちも結構客入ってるわね」  暖簾の隙間から覗いたサクラが呟く。  と、その視線の先。万楽の列に見知った顔を見つけて声を上げた。 「ちょっと! あんたたち何、砂の方のラーメンに並んでるのよ!」  サクラが突っかかっていったのは、アスマ班の面々。 「別にあんたに文句言われる言われはないわよ!」  ツンと顎を上げて言い返したのはイノ。 「俺はこんなめんどくせぇ所には来たくなかったんだけどよ。こいつらがどうしてもって言うから」 「ぼくは後から一楽のラーメンも食べるからいいもん」  シカマルとチョウジに返事には、サクラも肩を落とす。 「サクラちゃん、ラーメンできたから運んでくれってばよ!」  店の中からナルトの声が呼ぶ。 「あんたたち店の手伝いなんてしてるの? 任務?」  イノの言葉に振り返ってみたサクラだったが、複雑な顔で言葉を濁して去っていく。 「いい? あんたたち三人、後で一楽にも来なさいよね!」  遠ざかっていくサクラの背中を見送りながら、チョウジが二店の暖簾を見つめて言う。 「それにしても、一楽と万楽って、名前、似てるよね」 「ああ。でも目指すラーメン道は正反対なんだってよ」  シカマルが言う。 「ラーメン道?」  イノが肩をすくめて言う。 「一楽は、ほんの一瞬でも笑顔になれるラーメン作りを目指して一楽。対して万楽は、万人に幸福を届 ける至福のラーメン作り」  訳知り顔でうなずくシカマルに、チョウジが尊敬の目を向ける。 「やっぱりシカマル物知りだな」  だがイノは不信げに片眉を上げてシカマルを斜めに見る。 「なんであんたがそんなこと知ってるのよ」  それにニヤリと笑ったシカマルがズボンのポケットから一枚の紙を取り出す。 「パンフレットに書いてあった」 「やっぱり」  納得して頷くイノ。  その後ろで再び声が上がる。 「一楽120杯達成。万楽150杯達成」  それを聞きながら、シカマルが呟く。 「こりゃ、熾烈な争いになるな。クソめんどくせぇことになりそうだな」  ラーメントライアル開始から二日が経過した夜。  ラストとなる明日を前に、テウチをはじめとする三人が一楽の厨房に集まっていた。 「あ〜〜、疲れたってばよ」  ラーメンどんぶりを洗いすぎてふやけた手をしたナルトが、情けない声でカウンターにつっぷす。 「スタミナバカのあんたでも疲れるんだ」  いままでの各店の売上金の表を眺めながらサクラが隣りのイスに座り込む。  そういうサクラはいたって元気。というよりも上機嫌だった。  その理由は、今サイが不可解な顔で読んでいる号外新聞のせいだった。 ―― かわいい看板娘さんも大活躍。    さすがは一楽。味も頑固親父も客の心をがっちりキャッチ。  一楽のテント前に長蛇の列を作る客の写真と一緒に、なぜかラーメンを盆に載せたサクラの笑顔の写 真がデカデカと載っている。 「かわいい………?」 「ちょっと、そこ!」  長い沈黙の末に首を傾げたサイに、サクラがキッと鋭い睨みを送る。  それを真正面から黙って受け止めたサイだったが、ハッとしたように笑顔を作り言う。 「そうか、これが人の仲良くなるためのお世辞ってやつか!」 「サイ、もう止めろって」  サクラがチャクラを練りあげた拳をにぎっているのを見て、ナルトがサイの手から号外の新聞を取上 げる。  だが、写真を眺めたナルトの目が一瞬、一点で止まって目を見開く。 「なによ。あんまりわたしがかわいいんで、見とれちゃった?」  反論は許さないわよと眉を釣り上げているサクラに引き笑いを浮かべたナルトだったが、サクラに写 真の一点を示して真顔になる。 「あ!」  小さく声を上げたサクラだったが、一心に明日のラーメンに仕込みをするテウチを見て口を閉ざした。  サクラの後ろから写真を見たサイも、黙って目配せしたナルトに頷いてみせる。  写真の片隅にはカカシと、パックンを抱いたアヤメの姿が写っていた。 「記念すべき第一回ラーメントライアル。それも残すところ本日一日となりました。各店、味と己のラ ーメン道においてしのぎを削った今回のトライアル。現在の来客数を発表いたします!」  今日の最終決戦のために雇われた司会者が、真っ赤なスパンコールつきの蝶ネクタイをしめた姿でマ イクを片手にカメラを引き連れて声高に叫ぶ。  店の中からそれを横目に眺めながら、ナルトがサクラの耳元でささやく。 「なぁ。アヤメちゃんはもうカカシ先生が保護してだろう? だったらなんでおっちゃんのところにつ れてこないんだ?」 「さあ?」  お互いに師として信頼しているカカシだが、なにを考えているのかは、いまいち掴みきれない部分が ある。 「なにか理由はあるんだろうけど……」  肩をすくめるサクラに、ナルトも納得できない顔だったが答えを見つけられるべくも泣く頷くしかな かった。 「でも、どうせあの人のことだから、そのうち「よ!」とか言って現れるわよ」 「うん。俺もそう思うってばよ。それに」  ナルトはニシシシと口に手を当てて笑う。 「なによ」  お盆に水を載せて運ぼうとしたサクラの前で、ナルトが指をクロスさせて印を組む。 「あんた何する気?」  サクラが目の前で分身したナルトに眉を顰めてみせる。 「俺ってば手伝いばっかで全然ラーメン食ってないし、アヤメちゃんのことが気にかかってたからでき なかったんだけどよ、もうアヤメちゃんの心配はないんだし、おっちゃんの優勝のためにも俺が一肌ぬ いじゃおうかなってな」  ナルトはそう言うと、さらに「変化!」と唱えて現れた分身をいろいろな人間に変化させていく。イ ルカ先生、キバ、ヒナタ、シノ、リー、テンテン、ネジと次々と店の裏から出て一楽の列に並んでいく。 「思う存分食っちゃる!」  ニシシシと笑うナルトを、サクラはため息混じりで肩をすくめて見るのであった。  その頃、厨房でテウチとともにラーメンを作っていたサイは、足元に転がってきた紙くずに気付いて 手に取った。  中に石を詰めて丸めた紙は、厨房裏のドアから投げ込まれたようだった。  投げた人物のものだろう、走り去る人物の足音も聞こえる。  それに気付いていながら、サイは黙ってその人物を去らせると紙を開いた。  そしてそこに並んだ文字を見ると、それをテウチに手渡した。 ―― 優勝は万楽に譲れ!    そうでないと、アヤメ嬢はどうなるか覚悟しておけ。  黙ってそれを読んだテウチは、紙を握り潰してしばらく考え込んでいたが、紙をズボンのポケットに 押し込むと決意を滲ませた目で湯の煮えたぎる鍋を睨みつけた。  店の外で司会者が叫ぶ声が告げる。 「一楽、万楽ともに現在600杯。勝負は本日午後3時のオーダーストップまで! さぁ! どちらが 優勝するか?!!」  黙々とラーメンを作り続けるテウチの背中を見ながら、サイは無言のまま積みあがったラーメンの玉 をテウチに手渡すのであった。  長蛇の列の先を飛跳ねながら見やるのは、キバの姿をしたナルトだ。 「ラーメンちゃんにたどり着けるのはいつだってばよ」 「キバに変化してても、その喋りじゃバレバレだぞ」  不意にナルトの隣りに瞬身で現れたカカシが言う。 「あ、カカシ先生!」 「よ!」  サクラの予想通りに片手を挙げて言うカカシに、ナルトが思い出したようにハッとして辺りを見回す。 「それはそうと、カカシ先生。アヤメちゃんは?」  だがどこを見てもアヤメの姿はない。  いつものごとく、飄々とした態度でカカシが立っているだけだ。 「ん? アヤメちゃんなら無事だぞ。ま、誘拐でもなんでもなかったからな」 「そうなの? だったらなんで帰ってこないんだってばよー」  理解不能と首を傾げて腕を組むナルトに、カカシは答えるでもなくその頭に手を置く。 「ところでナルト。おまえこんなに分身してラーメン食うつもりか?」  列のいたるところにいるナルトの影分身の姿に、カカシが言う。  その視線の先で、ナルト変化のイルカ先生が一楽の暖簾をくぐって入っていく。 「おう! 心行くまで食ってやるってばよ!」 「………」  楽しみで仕方がないらしいナルトに、カカシはため息一つついて肩に手をおく。 「俺は、どうなっても知らないからな」 「なにが、なにが?」  相変わらず察しの悪いナルトには頭の上にはてなマークが並ぶだけだった。 「分身解いたらどうなることか……」  小さく呟くカカシに、ナルトがその背中を不可解そうに眺める。  だがすぐに気分を入れ替えた笑顔で言う。 「カカシ先生も一緒に一楽のラーメン食ってこうぜ」 「……ま、いいけどな、それも」  そう言ったカカシの視線は、隣りにできた列の先、万楽の店へと向っていた。
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