「僕の存在価値」


 



 ぼくはもうすぐ殺される。
 それも酷い拷問の末であることは確実だ。
 頭の皮を毟り取られ、滲み出る血や体液を汚物だというように嫌悪の目で見られ、そして最後は体を
あらん限りの力で押し潰され、体の中の全てを吐き出さされて命を奪われる。
 そしてきっと、命つきたぼくを、彼女は愉悦の笑みで眺めることだろう。


 ぼくが彼女の前にはじめて姿を見せたときの、彼女の落胆と嫌悪の顔を忘れない。
 そんなに嫌ならぼくの存在など無視してくれればいい。
 何度心の中でそう呟いたことだろう。
 それなのに、彼女はそんなぼくを、そこに存在することだけでも許せない。だからこそ、何度もこの
世から消え去ってくれていないだろうかという一縷の望みのために、ぼくを覗き見てしまうのだと言う。
 ぼくの顔をみるたびにつく、大きなため息。
 ときに罵詈雑言を投げかけてくることもある。
「あんたのせいで、何もやる気がしない。早く消えて!」
 そんなぼくにだって、存在価値があるからこそ、この世に生を受けたはずだ。そう思いたい。
 だけど、もうそんな希望すら消えかけている。
 そしてそれに反比例するように、体の中で膿んで膨れていく死すら望んでしまう絶望。その絶望が体
中を満たして、理不尽だという怒りに体が赤く紅潮するほどだ。


 ああ。でもそんな悲嘆の言葉でさえも、もう言えない。
 彼女がぼくを見つめている。

 彼女の爪がぼくの頭の皮を掴み、ちぎり取る。
 ドロリと流れ落ちる赤い血。
 痛い! 痛いよ! ぼくの声が聞こえないの?
 彼女が顔を顰める。
 だがそれは、ぼくの声に耳を傾けて良心に痛みを感じたからではない。可憐な彼女の指先を、ぼくの
汚れた血で汚したからに過ぎないのだ。
 彼女の指が、左右からぼくの体を押し潰す。
 く、くるしい。
 堪えられない。ぼくの臓腑が、膿に満たされた臓腑が……。

―― ブチッ
「はぁ。つぶれた」
 痛いがこの爽快感はなんだろう。
 鏡を覗き込んでいた少女は、指先に乗った黄色い固まりを眺め、「ふふふ」と笑う。
 顔の頬にできた赤いニキビは、内部の脂肪の塊を抜かれ、丸く穴の空いた状態でそこにいた。
「どうしても気になって潰しちゃうんだよね。痕にならないように、薬つけておこう♪」
 少女の顔は、一つの大仕事をやり終えた爽快感で輝いていた。



「 ニキビの叫び 」



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